"せきつい"ブログ

脊椎専門の脳神経外科医のブログです。脊椎手術や学術に関する私見、患者さんとの会話、助言など、記録にしています。 また、アメリカ留学中のイベントなどについても書き込みしています。

腰椎の再手術ではLIFが良い?

私のいる病院でも、LIF(lateral interbody fusion)を行っています。

医者によっては、後方からの固定術よりも、LIFを好む場合もあるようです。

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1椎間や2椎間の手術において、個人的には、L4やL5のすべり症であれば、後方からのPLIF、TLIFで事足りるとは思っています。

L2/3やL3/4にケージを入れるのであれば、LIFは良い適応に思いますが、このレベルであれば、固定しないで済むケースが多いと思われます。

したがって、側方アプローチという点においては、個人的には、外傷などで、corpectomyが必要な症例などが良い適応なのではないか、と思っています。

 

もうひとつ、LIFのよい適応ではないか、というのが、除圧術後のrevision症例です。

京都大学からの論文です。

Shimizu T, Fujibayashi S, Otsuki B, Murata K, Matsuda S.

Indirect Decompression Through Oblique Lateral Interbody Fusion for Revision Surgery After Lumbar Decompression.

World Neurosurg. 2020 Sep;141:e389-e399. PMID: 32454196.

除圧術後の再発症例に、OLIFによる間接除圧を行った症例についての報告です。後方からの再展開を必要としないので、硬膜損傷や神経損傷などがなく、術後の回復も良好であったとまとめられています。

除圧術後、すべりやdisk heightの低下に伴う椎間孔狭窄によるradiculopathyなどは経験するので、LIFによりdisk heightやすべりを矯正する方法は理にかなっていると思われます。

患者さんは術者を指定した方がよい?

患者さんに、”手術は先生がされるのですか?”という質問をされることがあります。

患者さんは、誰が執刀してくれるのかは非常に重要なこと、と思っているようです。

患者さんからすれば、ある程度、経験豊富な人に手術をしてもらいたい、と思うでしょう。

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確かに、脊椎手術では、市中病院においては、頚椎症性脊髄症に対する椎弓形成術や、腰部脊柱管狭窄症に対する椎弓切除術などが全体の中でそれなりの割合を占めていると思われ、これらはresidentクラスが執刀することも多いと思います。

 

しかし、病院としては、治療成績が悪くなるような対応をすることは、得策ではないことから、手術は、問題なくできると思われる人に割り当てられるものと考えられます。

また、手術は一人でやるものでもないので、経験が少ない人が術者であれば、助手は経験豊富な人になるでしょう。

 

若い医者(resident)と指導医(teaching neurosurgeons)で、治療成績に違いがあるかを検討した論文がありました。

“Comparative study of perioperative complication rates of cervical laminoplasty performed by residents and teaching neurosurgeons.” J Clin Neurosci 2017

 

今年度の脊髄外科の学会長で、その学会の前に亡くなられた、谷口先生の名前があります。

この論文によれば、193例で、術後30日以内の合併症率には違いがなかった、とあります。

術者はresidentであっても、指導医が助手をしていれば、大きな問題はない、ということかもしれません。

統計の勉強

論文を書こうとすると、統計学の知識が必須になってきます。

その際、どこまで知っておく必要があるのか、ということですが、個人的には、さほど深い知識はいらない気がしています。

 

臨床研究の指南書でも、統計学の深い知識は不要、と書いてあるものは散見されます。

 

臨床研究立ち上げから英語論文発表まで最速最短で行うための極意 (すべての臨床医に捧ぐ超現場重視型の臨床研究指南書)

 

ただ、ある程度の知識は必要で、私が、論文を書く際に、確認するのは、

 

今日から使える 医療統計

 

です。

厚みもない本ですが、かなり、ポイントを抑えてあると思います。

そして、この本の中にあって、重宝するのが、

"統計手法を選択するときの6つのチェックポイント"という表です。

差か相関か、データの対応性、変数の種類、正規性、比較する群の数、症例数、の6つから、適切な統計手法を選ぶことができる早見表です。

 

データを解析する際、どの統計手法を選ぶべきかは、私のような初学者は自信が持てませんが、ひとつ、この本を根拠に選択することができます

統計も数学なので、実践の中で、知識を増やしていくことが結果的には、定着もするし、理解もできる気がします。

より複雑なことに関しては、統計に詳しい方に相談することで、概ね解決できるのではないでしょうか。

 

今日から使える 医療統計

クロスリンク(cross-link)は有用か?

脊椎の固定術で、クロスリンク(cross-link)を入れることがあります。

クロスリンクは実際に有効なのでしょうか?

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 PPS(経皮的椎弓根スクリュー法)を使うようになって、クロスリンクを入れる頻度が減っていますが、オープンで椎弓根スクリューを入れた際には、クロスリンクを併用することが多いと思います。 

回旋に対して、有効だから、と上級医にいわれ、そういうものかと思い、特に疑いもせず、使ってきましたが、報告があるのか調べてみました。 

  

Global spine journalでは、Ming-Kai Heiehらが、豚で行ったIn vitroの実験を報告しています (Hsieh MK et al. Global Spine J. 2021 PMID: 33511875).

クロスリンク(cross-link)は、下図の右のように2つ入れると、入れない場合や真ん中に1つ入れた場合よりも、回旋に対する制動が良くなる、とのことでした。直感的にも右の方がよい気はします。

ちなみに、豚の脊椎は、頚椎が7、胸椎が15か16、腰椎は6個のようです。

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邦文では、

三重大学の中上 祐希先生らが、整形外科63(7), 2012で、

"脊椎インストゥルメンテーションにおけるクロスリンクに関する生体力学的研究"

というタイトルで、イノシシ死体の腰椎での実験の報告をしています。

 

クロスリンク位置を、ロッドの上方、真ん中、下方、に設置して、その違いなども検討していますが、結果、

・クロスリンク設置により、回旋に関する制動が高まる

・クロスリンク設置の高位に関して、効果に差はないので、入れやすいところに入れればよい

ということでした。

椎弓形成術で、C2椎弓の処置をどうするか?

頸椎後縦靭帯骨化症(OPLL)や頚椎症性脊髄症では、時々、C1やC2椎体レベルまでOPLLが発達していることがあり、C2椎弓切除が必要と考えられるケースがあります。 

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・上位頚椎の固定をする際、C1後弓やC2棘突起に付着する筋群は基本的には、剥離する

ことから、C2椎弓切除が必要であれば、C2棘突起に付着する筋群もある程度、剥離せざる得ない

と思っていましたが、術後の後弯変形が知られており、C2椎弓、C2棘突起に付着する後方筋群は可能な限り、温存する方がよいと考えられ、C2椎弓切除に関して、文献を探してみました。

 

邦文検索で、東大の竹下 克志先生らが、骨・関節・靱帯(16(6) 581-58, 2003)に、

"頸椎症性脊髄症に対する縦割式椎弓形成術後の頸椎アライメント C2拡大の有無による相違 "

というタイトルで、

頚椎症性脊髄症において、

C2縦割、C2 dome、C2処置なし、の3群において、この順で、後彎(C2/7角の悪化)が進行した

と報告しています。特に、C2縦割では、かなり後弯は進行しています。

 

OPLLでは、骨化巣が、アライメント維持に関与する可能性を示唆するような論文もあるようですが、alignment維持には、C2棘突起に付着する筋群は重要なため、やはりこれは維持するべきで、C2椎弓切除は極力避け、やむを得ない場合には、domeにするべきかと思います(硬膜損傷リスクは上がりそうですが…)。

 

患者さんにもらったマスク

外来で、頚椎後縦靭帯骨化症(OPLL)の術後の患者さんが、空いている時間で、

"マスクを作っている"

といって、3枚のマスクをくれました。

その内の1枚が、こちらの写真です。

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何となく、鬼滅の刃らしさがあるけど、カジュアルで、カッコいいです。

院内では使えませんが、プライベートで愛用させて頂いています。

 

この患者さんは、80代で、

当初は頚椎手術は、

 

"怖いから受けたくない"

 

と希望されませんでした。

歩行障害が進行し、歩けなくなったときに、さすがに、受ける気になってくれて、

椎弓形成になりました。

 

術後の経過は特に問題なく、自宅退院となり、外来で診させて頂いていました。

 

きれいなマスクを作れる上肢機能、巧緻性があるということで、

非常に経過は良好ということがわかり、術者として安心したのと同時に、何となく手術のやりがいを感じた次第です。

脊椎の手術で病院選びは重要か?

患者さんの背景(住んでいる地域、年齢やリサーチ能力など)にもよると思いますが、

脊椎の手術が必要になったとき、

どこの病院で手術を受けるか?

というのは一番の悩み事だと思います。

 

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私も、いくつかの病院で勤務をして、脊椎の手術をしてきましたが、

学会などでの講演や発表や他の先生と話をしたり、という経験も合わせて考えれば、

Commonな疾患である頚椎症性脊髄症腰部脊柱管狭窄症などであれば、

ある程度、どこの病院で受けてもさほど問題はないように思います。

 

より、失敗しない病院の選び方、として、独断と偏見でいわせてもらえば、

・40代、50代くらいのDr

・極端に手術件数が多すぎず、少なすぎない病院

がいいと思います。

 

まず、Drの年齢ですが、

learning curve(学習曲線)というのがあります。

経験に応じて能力が高くなっていく、ということを示したものですが、

ある程度まで行くと、横ばいになっていきます。

Commonの疾患であれば、どこの病院でもそれなりの経験が積めるので、

ある程度の年齢になったDrであれば、それなりの技術があると考えられます。

 

そして、偏見も入りますが、年配のDrは、手術がかなりクラシックで、軟部組織への侵襲が大きいことがあります。

今までやってきたやり方を変えられないことが影響しているのか、

低侵襲へシフトしてきている王道からずれていることがあるように思います。

その点で、40代、50代くらいのDrがベターと思います。

 

また、手術件数ですが、ある程度の件数はあった方がよいですが、

件数が多い病院が良いかというと、手術件数を稼ぐために、

手術の適応が微妙(手術しなくてもよさそうな症例)だったりすることがあります。

つまり、不要な手術を受けることになる可能性があります。

 

この点に関して、

 病院選び以上に、

その手術は本当に必要なのかどうか、

ということは大事だと思います。

 

医者ではない患者さんが手術適応を判断することは困難だと思いますので、

医師の説明が理にかなっているもの

と思えなければ、セカンドオピニオンをお勧めします。

 

・画像の異常だけでなされる手術(脊椎は機能外科なので、症状との一致が必要)、

・画像と神経症状が合致しないのになされてしまう手術、

・手術ではなく、術後のリハビリで良くなっているだけの症例(つまり、手術せずにリハビリだけで良かった)

・長期的な視点が欠けている手術(一旦は良くなっても、また別の問題が生じる)

 

などの症例に遭遇することも稀ではありません。

適切な時期に、適切な手術を受けることが、大事だと思います。