"せきつい"ブログ

脊椎専門の脳神経外科医のブログです。脊椎手術や学術に関する私見、患者さんとの会話、助言など、記録にしています。

LLIF後の腹筋麻痺

椎体間固定術に、LLIF(Lateral Lumbar Interbody Fusion:側方経路腰椎椎体間固定術)、が選択される頻度が高くなっているようです。

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変性側弯などには非常に有効なアプローチだと思います。術後の合併症として、腸管や尿管、大血管などの損傷が知られています。

個人的には、これらの合併症の経験はありませんが、腰神経叢の大腿神経麻痺による左下肢麻痺、感覚障害は経験しました…

psoas(腸腰筋)とquadricepsがゼロレベルとなってしまい、リハビリ病院転院が必要になりました。80代の高齢女性でしたが、幸いにも、およそ半年くらいの経過で、MMT3レベルまでは回復し、ピックアップ歩行器自立にはなりました。

そして、時々、見るのが、腹筋麻痺です。 

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この特徴としては、腹部の膨隆が体位によって生じることです。立位になると、腹壁麻痺によりデルマトームに沿って腹部が膨隆しますが、臥位になると凹みます

私は数例経験しましたが、知らない方もいるかもしれません。

はじめは血腫かと思いましたが、CTを取っても仰臥位での撮影になるので、何も所見はありません。

MISt手技における側方経路椎体間固定術(LIF)入門ーOLIF・XLIF®を中心に

上記の参考書にも記載がありますが、恐らく肋下神経の障害になるように思います。

皮膚切開や腹筋群の処置の問題かと思っていましたが、腰神経叢の問題かもしれません。いくつかの文献を見てみましたが、はっきりしません。

Ahmadian A, Deukmedjian AR, Abel N, Dakwar E, Uribe JS. Analysis of lumbar plexopathies and nerve injury after lateral retroperitoneal transpsoas approach: diagnostic standardization. J Neurosurg Spine. 2013 18(3):289-97.

文献によると、回復は悪いようなことが書いてあったりしますが、自験例では、やはり術後半年くらいで、改善がみられました。見た目のみの問題ですが、結構、気になる人は気になるようです。形成外科的な治療は検討されるかもしれませんが、保存加療で改善する可能性はあるので、半年くらいは経過をみて、改善なければ、メッシュなどによる治療も検討されるようです。

 

 

O-armのNavigationを利用した頚椎椎弓根スクリュー

先日、頚椎スクリューを挿入する際に使用するガイドテンプレートに関して、投稿しましたが、それほど一般的にはなっておらず、現状では、ナビゲーションシステムを利用している施設が多いかと思います。

多くは、術前のCT画像を利用したナビゲーションかとは思いますが、最近は、O-armで術中にCT撮影を行う施設も増えているようです。

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東京女子医科大学整形外科よりO-armを用いたナビゲーションの治療成績が出ていました(Wada K et al. Cervical Pedicle Screw Insertion Using O-Arm-Based 3D Navigation: Technical Advancement to Improve Accuracy of Screws. World Neurosurg. 2020)。

頸椎椎弓根スクリュー(cervical pedicle screw)の挿入の際に、この論文は、いくつかの工夫を加えた後、正確性の改善が得られたかどうかを検討しています。

下穴をあける際、ドリルが曲がってしまうことを予防するための、ドリルガイドスリーブを利用するようになって(Phase 3,4)、正確性が高くなった(スクリュー逸脱は1.2%)、と報告しています。

Referenceフレームの固定性をよくするために、C3-5棘突起に固定するようにした、という工夫(Phase 2)は、正確性にはさほど寄与しなかったようです。つまり正確性の低下は、画像的な問題ではなく、手技的な問題に起因していたようです。

また、過去の報告と比較をしています。2017年の下川先生と高見先生のNeurosurgical reviewの論文では、逸脱率2.8%(9/310)、Grade2以上の逸脱(2mm以上、4mm未満)が0.6%(2/310)であったのに対して、この論文では、前述の手技に工夫を加えた後(phase3,4)は、逸脱率1.2%(2/174)で、Grade2以上の逸脱はなかった、とのことです。

下川先生の報告などはprobeを使用しており、probeよりもドリルの使用が良いのではないかと考察されています。確かに、特に骨が固い場合などはprobeは良くないのかもしれません。

99%前後の正確性で、Grade2以上の逸脱ゼロであれば、十分に思いますが、正確性だけをみると、菅原卓先生のガイドテンプレートの方が成績は良いです。

O-arm導入が市中病院では困難であることを考えると、従来の術前CT画像でのナビゲーションか、より安全に行うには、ガイドテンプレートが良い気がしています。

手術が上手な医者の見分け方

手術が上手な医者の共通点は?

当たり前かもしれませんが、上手な外科医には、決断力と余裕がある、と思います。

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決断力がある、というのは、その決断が必ずしも合っているとは限りませんが、決断することに時間をかけない、ということです。決断には、責任が伴いますが、術中など、速やかに決断をしなければいけない場面は多々あります。

色々な決断を先延ばしにする医師は、慎重、ともいえるかもしれませんが、決断力がない医師の手術は、微妙なことが多いように思います。

以前、TVで、脳動脈瘤の手術の特集をやっていたときに、ご高名な先生が、"動脈瘤にクリップをすることができないこともある。その場合には撤退することもある。"と術前に患者さんに説明されていて、それを"勇気ある撤退"と表現されていました。

手術は、手術前のプランニングが重要ですが、術中も予想外のことが起こることがあり、状況によっては、引き下がることも含めて、その都度、決断を迫られます。手術中は、決断の連続ともいえるかもしれません。

 

余裕がある、ということですが、これは、経験に裏打ちされているのか、元々の性格なのかわかりませんが、上手な術者は、見ていて、余裕を感じます。集中していても、周りが見えている、という感じです。

手術中、バタバタするようなことはほとんどない。そして、急いでる感じはないのに、手術は早い。

手術以外で、忙しいであろうときにも、余裕をなくすような、いわゆる"テンパった状態"にはならないように思います。

 

では、患者さんは、どのようにして、医師に余裕があるか、決断力があるか、を見分ければよいでしょうか?

余裕があるかどうかは、外来の様子で何となくわかるかもしれません。

外来のスタンスの問題もあるかもしれませんが、余裕がない医者の外来は、忙しいときに、医者がバタバタしてます。

余裕のある医者は、外来が混んでいて、周りはバタバタしていても、医者は淡々としています(かなり主観的な意見でしょうか…)。

決断力があるかどうかは、ひとつは、手術の術式を患者に決めさせるような医師は、微妙なのではないか、と思います。つまり、脊椎でいえば、固定術を行うかどうかを、患者さんの希望に任せる、あるいはアプローチを背側か側方か、というのを患者に聞くような医師は、注意した方がいい気がします。

また、質問をしたときに、有耶無耶な返答であった場合なども、注意が必要です。できる医師は、知らないときには、"知らない"、"わからない"、とはっきりいう気がします。 

参考文献等はなく、かなり、個人的な意見でも申し訳ないです…

決断力 (角川新書)

頸椎スクリューはテンプレートを使う

先日、頚椎後方固定で、テンプレートを使用した手術をみせて頂く機会がありました。

秋田脳血管研究所の菅原卓先生らが開発された技術です。 

Sugawara T et al. Prospective Multicenter Study of a Multistep Screw Insertion Technique Using Patient-Specific Screw Guide Templates for the Cervical and Thoracic Spine. Spine (Phila Pa 1976). 2018 Dec 1;43(23):1685-1694.

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2018年にpublishされていますが、googleで調べるとすでに引用は24あります。2015年の共同研究者の金山先生が筆頭のspineの雑誌はcitationが100を超えているようです。相当なインパクトの論文であることがわかります

2019年に民間医局でコラムが載っていました。

菅原卓(秋田県立循環器・脳脊髄センター)|キャリアコラム|

これは、術前のCTから、ソフトウェアを使って、スクリューのトラジェクトリーを設定、その後、3Dプリンタで、棘突起や椎弓にフィットするテンプレートを作り、そのテンプレートを使って、椎弓根スクリューや外側塊スクリューを挿入する技術です。

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術中、助手にテンプレートがずれないように押さえてもらって、術者がテンプレート上にあるholeに下穴をあけて、という感じで手術を行います。論文では圧倒的な安全性が示されています。また、透視やナビゲーションが不要で、手術時間が短縮できること、被爆がないというメリットもあります。

頸椎のpedicle screwはNavigationが必要と思っていましたが、この技術で十分だと思いました。術前のプランニングに用いるソフトウェアの使い勝手も改善してきているようです。

外側塊スクリューであれば、不要とも言えますが、被爆がない、また、トラジェクトリーに信頼性があり、LMSでも長いスクリューが安全に使用できることを考えると、LMSでも使用してよい気がします。

ただ、超緊急ではオーダーメードで、テンプレート作成までの時間がかかるため、使用できません。このテンプレートでしかスクリューが使えないと、緊急時の対応ができなくなる可能性はあります。

椎弓形成術でC3椎弓は切除か形成か?

椎弓形成術(laminoplasty)において、

C3椎弓を形成すると、C2棘突起に付着する頸半棘筋(Semispinalis Cervicis)を剥がす必要があるため、術後の後彎変形や、C2棘突起と形成したC3椎弓が干渉するために、可動域が狭くなる、といった報告があります。

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広島大学脳神経外科より、C3椎弓の取り扱いに関して、論文が出ていました。

Shimizu K, Mitsuhara T, Takeda M, Kurisu K, Yamaguchi S.

Effects of Preservation of the Semispinalis Cervicis Inserted into C2 on Craniocervical Alignment After Laminoplasty.

World Neurosurg. 2020

C3椎弓を形成することで、頸半棘筋の剥離を行った群と、C3椎弓を切除とすることで、頸半棘筋の温存を行った群で、長期フォローしたところ(フォロー期間に差がありますが)、剥離群では、C2-C7角が減少(後弯変形)し、O-C2角が増加、つまり上を向くような姿勢になったということです。

C2-C7角が減少して、代償性にO-C2角が増加すると説明されていますが、頸半棘筋が剥離されている一方で、C2棘突起に付着している大後頭直筋や下頭斜筋は温存されているので、このバランスが崩れて、O-C2角が増加する方向に作用するのは、想像できます。また、この代償機構の合併症として、C1/2の不安定性に寄与すると思われるC2歯突起の偽腫瘍pseudo tumorの症例が3例生じたと報告されています。

また、剥離群では、術後の可動域も低下を認めています。

したがって、この論文からは、C2棘突起に付着する頸半棘筋は温存するべきで、そのためには、C3椎弓は形成ではなく、切除が良いと結論になります。

私は椎弓形成を始めたときに、C3椎弓は切除、と習い、今までそうしてきましたが、このような論文をみることで、それが、妥当性がある方法だと認識できました。

首下がり症候群

椎弓形成術後に、首下がり症候群(dropped head syndrome)(術後頚椎後弯変形というべきでしょうか…)を呈する例に、先日、初めて、経験しました。

術後、半年以上経ったあとで、首下がりになってしまいました…

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術後の首下がり症候群のリスク因子としては、術前の画像検査では、

"C2-C7 angle", "C7-T1 angle", "center of gravity line from head(CGH) -C7 SVA"

の報告があります(Koda M et al. Dropped head syndrome after cervical laminoplasty: A case control study. J Clin Neurosci 2016 32:88-90)。

術前から頚椎が後彎している症例は、リスクが高いようです。dynamic撮影も検討すると、何か知見があるかもしれません。

また、最近、高齢化もあって、首下がり症候群自体は、増えているようです。

外来でも時々、経験します。先日、両側のDeltoidの麻痺もあって、motor neuron diseaseを疑い、脳神経内科に紹介した症例もありました。

脊髄外科学会誌でも誌上フォーラムで取り上げられていました。

頚椎高度後弯変形 (首下がり) 症例の治療戦略 (jst.go.jp)

首下がり症候群の診断のポイントは、

・基礎疾患の有無(二次的な首下がり症候群の可能性)

・global alignment(胸腰椎の変形の有無、代償機能)

といえそうです。

rigidでなければ、保存加療は試みる価値はあるもので、前胸部に固定された支柱で頭部を支えるSOMI型のコルセットなどの装具療法、頸部伸筋群などの筋力強化を中心とした理学療法が適応になるようです。

保存加療で改善なければ、外科的治療となり、症例にもよると思いますが、前方と後方手術が必要で、2椎間あるいは3椎間のACDFに加えて、後方は、C2 (or C3)からT3前後までの固定となることが多いようです。

S1スクリューのコツ

経皮的椎弓根スクリュー(PPS; percutaneous pedicle screw)で、S1スクリューを入れるときに、腸骨棘が邪魔になり、スクリュー刺入点が内側になったり、角度が外側に向いてしまったりすることがありました。やむを得ないものと思っていましたが、

MISt手技における経皮的椎弓根スクリュー法―基礎と臨床応用

にそういった場合のコツが載っていました。

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スクリューを入れようとすると、上後腸骨棘に干渉する場合には、ノミで、落としてしまえばよい、ということです。

言われてみればその通りです。

ノミではなく、別にドリルで落としてもよいでしょう。普段、腸骨を削ったりという習慣がなく、目から鱗、という感覚でした。これからは、そのように対応しようと思います。

 

また、スクリュー先端を岬角に留置する、といった点も強調されています。

これは、以前、聞いたことがあり、意識していましたが、L4/5,5/S1の2椎間固定をした際、S1スクリューのlooseningを経験していて、そういった場合、S1スクリューの入れ方に問題があったのではないかと反省しています。

スクリュー位置、長さ、角度など、looseningを来さないような刺入をしないといけません。