"せきつい"ブログ

脊椎専門の脳神経外科医のブログです。脊椎手術や学術に関する私見、患者さんとの会話、助言など、記録にしています。 また、アメリカ留学中のイベントなどについても書き込みしています。

脊髄損傷患者の血圧管理

脊髄損傷患者の血圧管理に関して、JNS spineに論文が出てました(Haldrup M et al. Initial blood pressure is important for long-term outcome after traumatic spinal cord injury. J Neurosurg Spine. 2020)。

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デンマークからの論文ですが、一般的なのかどうかわかりませんが、Authorの所属に、Department of Neuro-Intensive Careとあったりします。脊髄損傷患者の病院到着前、到着後などで、平均血圧の違いが神経学的予後に影響するかどうかを検討した論文です。血圧目標は、平均血圧>80mmHgとあります。

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患者背景としては、129例の脊髄損傷症例で、その内、AIS grade  Aは58例、Bが10例、Cが24例、Dが37例です。1年後の神経学的機能は、改善は35例(27%)、不変が69%、悪化が4%だったとのことです。129例の内、Data採取された105例の内、予後を3群(改善、不変、悪化)にわけて平均血圧の違いを検討すると、病院到着前、術中、NICU1-2日で、平均血圧は優位に差があった、ということです。NICU3日以降および損傷部位での違いはなかった、ということです。この論文は、データ採取可能であった予後悪化群は3例しかないというのが微妙な気がします。

これから、脊髄損傷症例において、できるだけ早期から、血圧管理、平均血圧80以上にすることが、予後の改善につながる、と主張しています。

Figure1つ、Table3つのかなりシンプルな論文です。手術に関する記述や、神経学的悪化症例に関する詳細などの記載はありません。

脊髄損傷後の予後に関しては、当然、色々な因子があると思います。GradeAであれば、可能な限り、早期に手術をすることが推奨される、というのもひとつだと思います。したがって、この論文では、GradeAが多いので、手術タイミングなどは予後に影響した可能性があります。ただ、血圧管理の重要性を謳っているという点で非常に価値があるように思います。脳と同様に、脊髄損傷も扱う必要がありまそうです。