"せきつい"ブログ

脊椎専門の脳神経外科医のブログです。脊椎手術や学術に関する私見、患者さんとの会話、助言など、記録にしています。 また、アメリカ留学中のイベントなどについても書き込みしています。

脳神経外科か整形外科か

脊椎の手術は、脳外科と整形外科のいずれでも受けることができます。

患者さんは、別に気にしていない気もしますが、

どちらの科が良いか?と聞かれると、

 

科ではなくて医者による

 

ということはありますが、

正直、学会レベルでの発表を聞いている限りは、特にアカデミックな点においては、

 

整形の方がレベルが高い

 

と思います。

 

学会は、

 

脳神経外科が主体の、脊髄外科学会 (neurospine.jp)

整形外科が主体の、脊椎脊髄病学会 (jssr.gr.jp)

 

がそれぞれあります。

会員数は、脊髄外科学会(主に脳外)が約1300人、脊髄病学会(主に整形)が3800人で、規模は脊椎脊髄病学会が大きいです。

 

脊椎は、

・脳外科では、マイナー

・整形では、比較的メジャー

・そもそも、整形外科医は、脳外科医より多い

となると、マンパワー的には、完全に整形優位ですね。

 

年に一回の学会の採択率は、脊髄外科学会は全例採択なのに対して、

脊椎脊髄病学会は、7割くらいの採択率のようです。

 

脊髄外科学会では、ほとんどトピックにならない脊柱変形、側弯などが、脊椎脊髄病学会では、シンポジウムテーマであったりするのに対し、

脊髄外科学会が売りにしている、腫瘍などのテーマは、脊椎脊髄病学会でも普通にシンポジウムになっていたりします。

 

また、脳外科と整形外科の共通の学会である

JPSTSS | 日本脊椎・脊髄神経手術手技学会

という学会があります。

整形外科からの発表が多く、学会賞は、ほとんど整形外科医が受賞していたりします(マンパワーの違いが大きいとは思うので、質を評価するには不十分かもしれません…)。

 

 

 

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大学教授で考えると、

脳外科の主任教授で、脊椎が専門なのは、獨協医大くらいなのに対し、

整形の主任教授は、多くの大学病院で、脊椎が専門です。

 

したがって、学会の理事につかれている先生は、

脊髄外科学会は、市中病院の先生が多く、開業医もいる一方で、 

脊椎脊髄病学会は、多くは大学教授となっています(別に医療のレベルを示すものでもありませんが…)。

 

整形外科では、大学発の発表や、その関連病院との合同研究の報告などがみられるように思います。

 

国際的にもよく使われるJOA scoreも、日本の整形外科からです。

 

2020年の脊髄外科学会の学会誌で、学術論文執筆のすすめという投稿がありました。

Journal of Neurosurgery Spineという雑誌の採択数に関して、人数比率にしたら、脳外科の方が生産性が高いという記事でした。Neurosurgeryの冠がある雑誌に積極的に投稿する整形外科医が少ない可能性があり、また、他の雑誌、SpineやEur Spineなどはどうでしょうか?国内の脳外科の採択はあまりみない気がします。

アカデミックな貢献という点で、脳外科は不利な気がします。

あくまで個人的な推測と感想です。

原著論文を書くとき、何を参考にしたら良いか?

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論文を書く際の参考書は、多く出版されています。

私も、良さそうな本は、とりあえず、買ってみるタイプなので、似たようなものを複数冊持っています。

 

原著論文(Original article)の書き方をイチから指導してくれるような、そんな上司がいたら、その人に指導を仰げばよいでしょうが(私自身は、大学院での基礎系の論文は、オーベンにFigureも含めて原形がなくなるくらい、直してもらいましたが…)、

多くの人は、とりあえず、見様見真似、独力で書き始めるではないでしょうか。

 

最初に読むのにいいのではないか、と思うのは、原正彦先生の

 

 臨床研究立ち上げから英語論文発表まで最速最短で行うための極意 (すべての臨床医に捧ぐ超現場重視型の臨床研究指南書)

 

です。タイトル通り、立ち上げから投稿、revision、acceptまでの流れが解説されているのですが、

その中で、最も、有用だったのは、最初に論文を書くときのおススメは、

"2群比較の観察研究"

と具体的であったりすることかと思います。

Revisionは、もう一本、論文を書くつもりで取り組む

など、心構えに関しても、色々とためになります。

 

もう一つは、外科系、であれば、

外科手術にウェイトを置いた研究テーマについて、指南している

 

外科系医師のための手術に役立つ臨床研究

 

がおススメです。

論文で多い、予後因子やリスクファクターの検討などではなく、手術的な論文の書き方を解説しています。

 

統計などに関しては、また、次の機会に紹介させて頂きます。

 

痛み止めのボタン (IV-PCA)

脊椎の手術後に、IV-PCA(in- travenous patient-controlled analgesia)という痛み止めの点滴をつなぐことがあります。

点滴の中身は、フェンタニルなどの医療用麻薬で、

患者さんに、ナースコールみたいなボタンを持ってもらって、痛いときには、そのボタンを押してもらいます。

ボタンが押されたときに、点滴から、痛み止めが注入されて、痛みが緩和される、という便利なものです。

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ある患者さんが、退院するときに、いわれた言葉が、

 

「手術終わった後、先生が、"痛いよね?痛み止めのボタン、押しておくね"、といってくれましたね。どうもありがとうございました。」

 

 そういうことは、はじめて言われたので、ハッとしました。

 

手術が終わって、患者さんが病室についたときに、覚醒していて、痛みが強そうだったので、

"痛いよね、この痛み止めのボタン、押しておくからね。"

というような感じで、やったことで、このとき、特別だったわけではないのですが、自分が思っている以上に、

患者さんは、有難いと思ってくれていた、ようです。 

 

患者さんにしたら、医療者の言動で、

嬉しかったこと、嫌だったこと、色々あるんだと思います。

そのことを医療者に伝えることはそんなには多くない気がします。

 

何気ない言葉が、

患者さんの満足度を上げたり、下げたりするものなんだろうと思った体験です。

病気をみつけられなくて、ごめんなさい

患者さんから指摘されて、初めて、言葉の重みに気付かされることがあります。

それは、良い意味でも、悪い意味でも、なのでしょう。

 

ただ、それを実感する機会は少ない気がします。

つまり、医者は患者さんの思いに気付かない…

 

もらった手紙で、ハッとしたことがあります。

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歩行障害で受診された中年の女性です。

下肢しびれで発症され、他院で、腰椎椎間板ヘルニアと診断されて、保存的加療を受けられていました。

徐々に、下肢症状は進行、その後、いくつかの病院を受診となり、

私の外来に来られました。

 

上肢症状はないものの、PTR、ATRともに明らかに亢進、していました。

 

頚胸椎MRIを取ると、C7レベルでの硬膜内髄外腫瘍があり、cordを強く圧迫していました。頚椎でもC7あたりだと上肢症状がはっきりしないことがあります…

そのとき、何気に言ったセリフが、

 

「この腫瘍が原因ですね。今まで、気付かなくて、ごめんなさい。」

 

です。いくつかの病院を転々としていて、

後から見る医者は名医、ということもありますが、

最初に見つかっていれば、というような気持ちがあったのかもしれません。

 

そのときは、別に何とも思わず、そんなこと言ったような、というくらいだったのですが、

治療を終えて、退院前になったときに、その患者さんから、手紙を頂きました。

 

そこには、

「この言葉を聞いて、"なんて優しいお医者さんなんだろう"と思いました。」

と書かれていました。

 

言った側としては、特に深い意味もなく、何となく出た言葉なのですが、

受け取る方にしたら、かなり印象深いものになっていたようです。

 

逆にいえば、何気に言った言葉が、

患者さんとっては、傷付くこと、だったりもするわけで、

言葉は難しいと思ったりします…

脊髄の再生医療とステミラック

先日、札幌医科大学へ転院搬送となった患者の家族からお礼の手紙が来ました。

 

海で遊んでいて発症した、

ASIA分類Aの脊髄損傷の患者です。

 

脊髄損傷の分類には、ASIAやFrankelなどありますが、

Grade Aは、最重症で、障害レベル以下の完全麻痺です。

 

頚椎損傷で、緊急で後方除圧固定を行ったものの、神経所見の改善はなく、家族には厳しいICをしました。

 

ただ、若かったことから、ステミラックの適応があるのではないかと、札幌医科大学に相談をしました。

 

脊髄損傷に対する再生医療等製品「ステミラック注」を用いた診療について |お知らせ |札幌医科大学附属病院 (sapmed.ac.jp)

 

これは、保険適応になっている、脊髄の再生治療です。

 

細かくは、サイトを見て頂きたいですが、

 

臨床研究の有効に関する検討が不十分なのではないか、

厚生労働省の認可が下りるのが早すぎたのではないか、

 

という批判もあるようですが、

現段階では、重症脊髄損傷患者の希望のひとつであることは間違いないです。

 

実際に、患者さんの紹介をすると、入院枠などの関係で、必ずしもOKとはならないようですが、このときは、幸い、受け入れ可となりました。

ただ、HPでは、細かく書いていないのですが、実際には、転院にあたり、癌の否定などが必要で、かなり多くの検査があります。患者の状態が悪いために、この検査はかなり負担にはなります。

したがって、総合病院でないと難しくなります。

 

また、条件も、色々あります。例えば、アレルギーあるとダメ、とか、呼吸器つながっているとダメ、など。

 

日程的な制約もあるので、かなりタイトな日程で、転院前検査をして、その結果を送付した上で、

最終的に転院となりました。

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 搬送は、"メディカルジェット"でした。

北海道の患者搬送機「メディカルウイング」就航 (aviationwire.jp)

 

行きは、補助があるものの、

帰りは、これを使った場合には、高額になるとのことでした。

 

今後のステミラック治療の臨床データを心待ちにしています。

私の頚椎椎弓形成術

頚椎椎弓形成術は、大きく、

 ・片開き式

・両開き式

 に分かれます。

現在は、片開き式をされている術者が多い印象ですが、

私は両開きの指導を受けてきたので、両開き(Double open door)で、行っています。

 

手順としては、

 ・棘突起は、C3-6(7)まで正中縦割

(・C2は必要ならばDome)

C3椎弓は切除または部分切除

C4-6椎弓の形成(両開き)

・C7椎弓はdome、(必要ならば、形成)

 で行っています。

椎弓形成は、HOYAのアパセラムを用いています。

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手術時間は範囲にもよりますが、

最初は、2~3時間くらいかかりましたが、最近は、1時間30分くらいです。

以前、他施設で、片開きの手術をみせてもらったときに、1時間くらいで、早いなと思いましたが、正中切削が必要な分、手術時間は少し長めと思います。

 

C3椎弓に関しては、形成よりも切除の方が、術後の可動域制限が少ない、

 

という報告があり、切除にしています。

 

縦割した棘突起は、スペーサーに縫着して、形成すること、を試みています。

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ただ、術後にずれてしまっていることもあり、

無理に縫着しない方がいい気もしています。術後成績に何か差が出てくるほどの問題ではないと思いますが、いつか、このあたりも文献にまとめてみたいと思っています。

脊椎の症例報告をどこに投稿するか?

脊椎の症例報告(ケースレポート、case report)を、どこに投稿するか

ということですが、もちろん、

Neurosurgery、Journal of Neurosurgeryなどの雑誌でも、

症例報告は散見されることからは、非常に価値の高いものであれば、これらに投稿してみるのが良いでしょう。

しかし、実際には、そこまでの症例報告は、普通の病院勤務医では、難しいように思います。

 

その場合、オープンアクセスの雑誌が候補になります。

ただ、その場合には、費用、APC (Article Processing Charge:雑誌掲載料)、がかかることがあり、研究費などがあれば、別ですが、自腹であったり、ということを考えると、

 APCは安め

 そして、できれば、

 IFがある雑誌

 が希望になります。

 

以前、アクセプトされた症例報告で、

 Surgical Neurology International - Surgical Neurology International

 は、この基準を満たすように思います。

Publication Feeは、case reportで、$180と低めです(Original articleで$400)。

また、IFも1前後はあるようです。

 

IFをあきらめると、候補は増えます。

私が2報ほど載せてもらったのが、 

Case Reports in Orthopedics | Hindawi

 です。

Authorの所属をみると、それなりには信頼できる雑誌のように思います。

ただ、最近は、投稿数が多いためか、以前よりも、時間はかかるようです。

掲載には、$650ほどかかります。

 

以下は私のある症例報告のView数とDownload数ですが、症例報告とはいえ、それなりの人が見ているのだな、という感じでしょうか。

フリーアクセスというのが、良いのでしょう。

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投稿までのご参考に。